充実した仕事ぶりが自分を高めてくれる

これまでにもお話したことはありますが、私は３７歳で県庁の外郭団体を退職し、これからパソコンの時代だとの思いでこの会社を興しました。
当時、新築間もない自宅と土地を担保に運転資金を借り、新聞記者時代の上司や親戚や嫁さんのお母さんを連帯保証人にお願いして会社を回しました。
がむしゃらに働いたと思います。
新聞記者もハードワークでしたが、慣れない社長業はもっとハードでした。
よく思い出すのは、今は撤退したパソコン教室事業で池田町から夜のパソコン講座を受託し、真冬の雪の中を助手席にインストラクターの女性社員を乗せて週に２回か３回、走りました。
着いたらパソコンを立ち上げ、私がパソコン教室のにわか補助員です。
終わるとインストラクターを乗せて雪の山道を戻ります。

ある時、車のライトの中に狸が走り込み、しばらく狸をあおり運転するような形になって大笑いしながら車を走らせたことも今となっては楽しい思い出です。
当時は営業も私一人でした。
日中は営業に回り、夜はパソコン講座です。
きつかったですが若かったのでしょう。
胆嚢炎と盲腸で２回倒れましたがいずれも短期入院、それだけでした。
とにかく早く会社を一人前にしたい、少なくとも連帯保証人のいらない会社にしたいという一心でした。

やがてそれもかない、経営も安定して会社らしくなったかと思った頃、私はあることに気がつきました。
会社は一度始めたらやめられないという現実です。
恥ずかしい話ですが会社を興すことに精一杯で辞めることなんて考えていません。
少し余裕ができて当たり前のことに気がついたわけです。
社長業というのは大変だ。
永遠に続く組織をつくらないといけない。

でもその当時の私はその大変さにばかりに目が行って、それにしてはこの給料じゃ割が合わんと不満が募ってきました。
社員の働き方も気に入りません。
俺がこんなにやっているのにという目で見てしまうわけです。
まさに小人閑居して不善をなすです。

そんな時代が１０年近く続きます。
私は何かいつもイライラしていたように思います。
そんな不満たらたらの経営者だった私を救ってくれたのが稲盛フィロソフィです。
社員の皆さんを幸せにすることが社長の役割なのだ。
そしてそれが私自身も幸せになる唯一の道なのだ。
会社はそのための“場”なのだと稲盛さんに気づかせていただき私は自分の考え方が根本的に間違っていたことに気がつきました。

もちろんそれはフィロソフィの真理を理解しただけでフィロソフィの血肉化や実践にまでは至ってはいません。
でも、ある瞬間、社長業とは利他行だとストーンと腹に落ちたと感じたのです。
それから私は以前より徐々に我欲が薄れていき、それに伴って少しづつ気持ちが楽になっていきました。
そして稲盛さんの以下のような言葉に心から納得するようになりました。

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「労働で得られる喜びは特別な喜びであり、遊びや趣味とは全くとって替えられない。精神を集中し、飽くことなく努力し、辛苦を克服して目標に達した時の達成感は、世の中で他には比べられない喜びである。
仕事は人生で最も大きな比重を占めているため、労働や仕事の中から充実感を得られなければ、例え他のことで楽しみを見つけても、やはり空しさと物足りなさを感じてしまう。
従って俗世を離れなくても、仕事の現場が一番精神修養の場であり、働くこと自体がすなわち修行なのです。日々の仕事にしっかりと励むことによって、高邁な人格と共に、素晴らしい人生を手に入れることができるということを、是非、心にとめていただきたいと思います」

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この教えはなんと固苦しい、あるいは時代錯誤だ、観念的だといった不評を言われる方が大半で今どきは受け入れられないのかもしれません。
でも、日本人はこうした仕事観を持ってきたからここまでの経済力を持った国を作り上げ、世界から一定の評価を得られる国になったのだと私は思います。
働き方改革を否定するつもりもないし、長時間労働を支持するつもりもありませんが、人生で一番長い時間をかけている仕事の時間が充実していなければなんと寂しい人生でしょう。
さらに自分自身を高めてくれる場でもあるのです。
そのような考え方に気がつき、考え方を変えることができれば、なにもお寺や山にこもって修行しなくともいいのです。
仕事で自分の心を磨くことができるのです。
給料をもらいながらです。
そして素晴らしい人生を会社の仲間と共に手に入れることができるのです。
働きバチになるとかいうことではなくて、あるいは少しでも社会的に評価の高い仕事に就くということでもなくて、働くことに人生の意義を見つけることが、本当の働き方改革だと私は思います。

今朝のフィロソフィは「真面目に一生懸命に仕事に打ち込む」です。