その人の思いが人生の選択を決める

私の好きなテレビ番組でＮＨＫBSの「英雄たちの選択」というのがあります。
昔から私は歴史好きで歴史上の偉人たちが大勝負を前にどのような選択したかというこの番組設定が大好きです。
先週、越前福井の戦国大名朝倉義景を取り上げていました。
地方の豪族に過ぎなかった朝倉氏は越前の守護であった斯波氏を滅ぼし、越前の守護につきます。
まさに下剋上の武将です。
下克上と言えば美濃の齋藤道三が有名ですが、朝倉氏はそのはるか前に主君の守護を滅ぼし下剋上を果たした、まさに戦国大名の一番手と言ってもいい存在だそうです。

義景は５代目にあたり、福井の一乗谷に立派な城下町を開きます。
その賑わいは当時の日本の三大都市のひとつに数えられる繁栄ぶりでした。
その義景は将軍・足利義昭が京から越前に逃れた折り、一乗谷で京都の風情とかわらなぬもてなしをしたといいます。
その義昭が共に上洛して欲しいと義景に願うのですが結局上洛は見送ります。

代わって上洛に応えたのが織田信長です。
足利将軍をバックにつけて信長は権勢をふるいます。
当然、義景は信長ふぜいが偉そうにと面白くありません。
信長の上洛の命令にもそっぽです。
で、信長に攻められることになるのですが、浅井氏の裏切りによって信長軍は挟み撃ちに合い、後一手のところで信長を逃がしてしまいます。

後に、比叡山、朝倉、浅井の連合軍が成立し、またも信長軍をもう一歩というところまで迫ります。
信長に泣きつかれた将軍義昭の和睦調停を義景は受け入れてしまいます。
歴史において信長をここまで追い詰めたのは、暗殺で信長を亡き者にし明智光秀を除けば、後にも先にも義景しかいません。
それだけ優秀な武将だったのでしょう。
部下の越前武士たちもかなり勇猛だったようです。
義景が天下を取るチャンスは何度もあった。
その場合は越前幕府が誕生していたかもしれません。

何故、そうならなかったのか、簡単です。義景にはその気がなかったからだというのが番組の歴史解説者たちの結論です。
義景は元々は下剋上の大名だったのに、一乗谷の栄華な生活の中で戦国武将としての天下取りや信長討伐に対する意欲を持てなくなっていたのではないでしょうか。

一方で、５代続いた大名として「信長ごときが」というプライドがあるものですから信長の配下に入ることも良しとはしない。
変なプライドが身を亡ぼす典型です。
ある解説者が言っていましたが「信長を打つチャンスがあったのにそれもできず。一方で信長の下に入ることにはプライドが許さない。結局、下剋上という朝倉氏のＤＮＡも環境によって義景の中で薄れてしまったということだろう」と総括されていました。

結局、義景の戦いは中途半端に終わるのですが、信長はそれを許してくれるほど甘くはなかった。
越前領土内へ信長による凋落を仕掛けられ、敦賀におびき出されて信長軍に全滅させられます。
義景は一乗谷を捨て逃れますが、結局自害します。
栄華を極めた一乗谷は町屋も含めてすべて柱一本も残らぬぐらいに焼き払われたと言います。
今や「兵どもが夢のあと」なって朝倉遺跡が往時の繁栄を辛うじて伝えているだけです。

信長と義景の差はなんだったのか。
戦国武将としての能力差は案外なかったのではないでしょうか。
ただし、信長には天下統一という大きな野望があった。
天下布武が彼の旗印で、その考え方に大きな差があったわけです。
その思いがあったから義昭上洛の好機を的確にとらえるという行動になって現れたわけです。
いつもそのことばかりを考えているからパッと反応できる。
一乗谷の生活に満足している義景は反応できません。
失敗したらどうしようとうろたえるだけです。
利己的な損得勘定で考えればそんな危ない橋は渡れないとなるわけです。
利己が判断を狂わせるわけです。

「麒麟が来る」の今年の大河ドラマの題名は、「天下に泰平をもたらす麒麟が現れ、殺し合い続きの戦国時代を治めて欲しい」という当時の万民の願いを題名にしたものです。
主人公明智光秀はその麒麟が織田信長だと信じて我が殿と担いでいくわけです。

結局、麒麟と見込んだ信長を自分が殺すことになってしまうわけですが、何故、明智は信長を裏切ったのか、これは戦国時代最大の謎ですが、それはともかくとして信長と義景という二人の戦国武将を比べた時、その人の持つ思いや志、そしてその願望の強さが、いかに大きく人生に作用していくかということを感じざるを得ません。
「思わぬことはかなわない」
まずは思うことが出発点なのです。
今朝のフィロソフィは「ダム式経営を目指す」です。