日常の思いやりの所作が利他の心につながっていく

利他というと難しくとらえる人もいるかもしれませんが、他者への思いやりや誠実な対応と言えば、それは当然のことだと誰もが思うはずです。
でも実際は、あくまで自分の意識の範囲内での思いやりであって、人それぞれ思いやりの基準というか範囲はまちまちです。
一方で、同じ思いやりの行為をしても感謝する人もいれば、何も感じないで当然と受け止めて終わってしまう人もいます。
私は利他の判断を常にするためには、感謝や謙虚さと共に高い思いやりの心を持つことが大前提と思っているのですが、日常的に思いやりの実践ができる人はやがて利他の心を身に付けることができると言えます。
その点で稲盛さんの指導は厳しかったようです。

日本航空元会長補佐専務執行役員の太田氏が次のように証言されています。
「稲盛さんは・・悪意や怠慢からくるものではないうっかりミスに対してはあまり怒らないんです。ところがある日、一緒にうどんを食べている時に、私が自分のうどんに七味をかけた後、稲盛さんに渡すべきところを渡さずに自分の傍に置いたら、烈火の如く怒られたんです。
『おまえは人のことを全然考えていない。それがお前の欠点だ』と。そういう人間性に関わるところには非常に厳しかったですね・・」
その人のうどんはまずかったでしょうね。
私なら気がついても場が場だから黙っていたでしょう。
だから私は小善に止まってしまうのでしょう。
皆さんはどうですか、七味を差し出せますか。
あるいはこの人のように烈火のごとく怒られても素直に受け入れられますか。
稲盛さんは箸の上げ下げではありませんが、七味の使い方まで見ていて、間髪入れずその場で注意する。
烈火のごとくというのは稲盛さんの場合、本当に怖いですよ。
おそらく他のテーブルの人までビックリしたでしょう。
でも、日ごろのちょっと所業が実はその人の人間性を現わしているのです。

社内でも申し訳ありませんが私も含めて思いやりに欠けるなぁと思うことは度々です。
さすがに挨拶は皆さんかなりよくなってきましたが、近い席にいるのにメールだけで質問を出したり、道や席を譲ることもなく、コンパで我先に箸を付けたり、あるいは他の人につぎもしない、飲み物も勧めもしない。
一緒に蕎麦屋に行けば七味の例は間違いなく当社でもあるでしょうね。
見積書に私は印を押しますが、たまに押印の箇所に付箋を張っているケースがあります。
ここにハンコを下さいという意味ですが、気の利いた人は押す場所をずらして張ってあるのですが、気の利かない人は押す場所に張ってある。
そうなると私はいちいち付箋をはがしてハンコを押さなければならないわけです。
気を利かせたつもりでしょうが、押す側への思いやりが中途半端なのです。
このような思いやりに欠ける人は、お客様に対しても同じですから、お客様は直接その時は目をつぶっても腹にたまって何かトラブルでもあった時に爆発する。
トラブルで怒られている本人はそんなに怒らなくとも思っているかもしれませんが、常日頃の態度がお客様の怒りを増長させてしまうのです。
逆に、思いやりや誠実さが日ごろから感じられる人はちょっと失敗しても相手はその人の人間性を知っているから許しくれます。
他者への思いやりとか誠実さというは実はその人の身を守る鎧でもあるのです。
さらに仕事にも大きな影響を与えます。
そのような人が設計した帳票や入力画面は痒いところに手が届くようなシステムとなります。
人としてももちろんですが、仕事ができる人というのは基本的に他者への思いやりを持った誠実な人なのです。
技術屋だからちょっとぐらい気が利かなくていいと思ったら大違いです。
逆です。
人が使うシステムを作るのですから他者の立場に立って物事が考えられる、思いやりのある人でなければならないのです。
そのためには日常から思いやりの実践を心がけていないと、ただの独りよがりの
技術者や社会人になるだけで、その道で成功した人となることはできません。
ましてや利他の心に到達することなんてできるはずがありません。
他者への思いやりを常日頃から身に付けるように意識し、訓練するようにしてください。
間違いなく仕事も、そして人生まで変わってきます。
今朝のフィロソフィは何事にも思いやりの心で誠実に対応するです。